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【キューバ】陽気でしたたかな詐欺師に遭遇した話

こんにちは。あさうみです。
ピースボートで行く世界一周の旅、17か国目はキューバ。今回は首都ハバナの旅行記です。

陽気なキューバ人との出会い

太陽が燦々と降り注ぐ、ハバナの旧市街を散策していたときのことだった。メインストリートから一本外れた道を歩いていると、前方からやってきたおっちゃんに突然声をかけられた。

「Hola(オラ)!今日めっちゃ暑くない?こんなに暑いんじゃ歩いてられないよ!近くにいいバーがあるから一緒に飲みに行こう!」

本当にいきなりだった。ニコニコの笑顔で、スペイン語と英語のハイブリッド言語でそんなことを言う。なんというか、怪しい。あまりにも怪しい。やたらとフレンドリーな人は悪徳な客引きかもしれないので注意しましょうと、『地球の歩き方』に書いてあったことを思い出す。このハイテンションなおっちゃんに関わったら危険なんじゃないかと、内なる声が聞こえた。

……聞こえたのだが。わたしはあろうことか、おっちゃんの誘いに乗ってしまった。今振り返ってみてもなぜだか分からない。キューバの開放的な空気がそうさせたのかもしれないし、そのときは本ッ当に暑かった。あるいはグアテマラでのスペイン語留学経験を活かして、現地の人とコミュニケーションをとってみたい気持ちもあったかもしれない。

そんなこんなでおっちゃん行きつけのバーに向かうことになった。道中、彼のマシンガントークは止まらなかった。職業は大学教授で歴史を教えていること(本当か?)。スペイン語と英語、ロシア語、アラビア語が話せること(本当か〜?)。5歳の娘がいること(これは本当っぽい)。聞いてもないのに延々と身の上話をはじめた。

おっちゃんとブラッディメアリー

怪しいバーに連れていかれるんじゃないかと警戒していたが、そこはオープンテラスのような店だった。これなら何かあっても逃げられるだろう。わたしはキューバ名物のダイキリを注文したが、店主にダイキリはないと言われてしまう。「なんでやねん」と思わず日本語で愚痴をこぼす。

仕方がないのでおっちゃんと同じものを注文すると、トマトジュースのようなカクテルが出てきた。思わず顔がひきつる。というのもわたしはトマトジュースが大の苦手だ。しかもおっちゃんは二人分のカクテルにタバスコをドバドバ投入し始めるではないか。(あとで調べて分かったが、これはブラッディメアリーというカクテルだった。)

本当は飲みたくなかったが、意を決して一口だけ飲んでみる。ウ゛ゥゥゥ〜ッ!失礼なのは百も承知だが、わたしの味覚感覚でいえば、そのブラッディメアリーは衝撃的なマズさだった。

わたしが心の内で発狂しているのをよそに、おっちゃんは屈託のない笑顔で「どうだ美味いだろ~!」ときいてくる。私は空気を読んで「ウ、ウン……」と応えてしまう。ご機嫌なおっちゃんはそのまま喋り倒す。わたしはポーカーフェイスを装って禍々しいカクテルを飲み続ける。キューバ人と日本人の国民性がぶつかり合う。

おっちゃんとショッピング

激マズのブラッディメアリーを飲み、おっちゃんとの異文化交流を楽しみ、そろそろ会計しようかというとき。あれ…?おっちゃんは代金を払う素ぶりを全く見せない。もしかしてこれはわたしが二人分のドリンク代を払うのか?おっちゃんと店主はニコニコしながらわたしが代金を支払うのを待っている。や、やられた〜!

だが幸いにもその店はボッタクリバーではなかった。面白い経験をさせてもらったしここは奢ってやるか…と自分を納得させて、わたしは二人分の会計をした。それにしても、これがもし日本だったらおっちゃんが奢ってくれそうな場面だが、どうやらキューバはそうではないらしい。

「このあとはどうするの?」「おみやげでも探そうかな」「それならボクが案内するよ!」

この時点でわたしはだいぶ絆されていた。そのせいでバーを出たあともおっちゃんと行動を共にすることになってしまった。キューバ産のコーヒーとハチミツ、それにチェ・ゲバラのTシャツが欲しいことを伝えると、おっちゃんは「あいわかった」と歩き出す。観光客の多い繁華街を通り抜け、地元民の生活エリアに入っていく。

おっちゃんに連れられて、簡素なカウンターがあるだけのキューバ国民向けの商店にやってきた。店というよりは配給所のような雰囲気で、近辺にはこうした商店が何店舗かあるようだった。キューバの社会主義的な側面を垣間見たような気がして少しドキッっとした。

そしてここで一つの問題が生じた。というのも、国民向け商店では観光客が利用する通貨──兌換ペソでの支払いができなかった。(キューバでは2021年まで観光客向けの兌換ペソ国民向けのキューバ・ペソという二種類の通貨が流通していた。)するとおっちゃんはペソの立て替えを提案してくれた。わたしが商品価格と同等の兌換ペソをおっちゃんに渡し、おっちゃんはキューバ・ペソでわたしの代わりに買い物をする、という流れだ。わたしはおっちゃんの提案を快諾した。

ただのビニール袋に入ったコーヒー、ラム酒の空き瓶に入ったハチミツ、ゲバラTシャツ、ついでにおっちゃんにゴリ押しされて買った葉巻。キューバ土産としてパッケージ化された商品ではなく、キューバの生活に根ざした品々を国民価格で手に入れることができたのは価値のある体験だと思った。

真相は明るい闇のなか

こうしてわたしのハバナ観光は幕を閉じた。なんだかすごい一日だった!と、高揚した気分でピースボートに帰船する。だがルームメイトとその日の出来事を報告し合うなかで、わたしはとんでもない勘違いをしていたことに気がついた。

わたしたち観光客が使う兌換ペソは、キューバ国民が日常的に使うキューバ・ペソよりもずっと価値があるという。キューバ・ペソは兌換ペソの約25分の1の価値しかない。買物代行したおっちゃんに100ペソと言われたとき、わたしは兌換ペソで100ペソを渡していた。だが正しいレートであれば、わたしはおっちゃんに兌換ペソで4ペソ渡すだけでよかったのだ。つまりあのとき、おっちゃんは破格のレートでわたしから兌換ペソを手に入れていたことになる…!

ぼったくられたのは事実だが、それでわたしが損をしたかというと、そういうわけでもない。正規の土産物店で購入するよりも安い価格で商品を買えたのは事実だし、キューバのローカル商品をゲットできたのも得難い経験だった。実際おっちゃんの買物代行で手に入れたコーヒーやハチミツはめちゃくちゃ美味しかったし、無理矢理買わされた葉巻も帰国後に友達にあげたら大変ウケがよかった。

別れ際、おっちゃんは娘の誕生日が待ち遠しいと言っていた。もしかしたら私から受け取った(掠め取った)兌換ペソで娘の誕生日プレゼントを買ったのかもしれない。そう思うとおっちゃんのことが憎めない。(そもそも娘の存在自体も疑わしいが……)

おっちゃんは確かに詐欺師だった。陽気でしたたかなグレート・プリテンダー。わたしが大変な犯罪に巻き込まれなかったのは、ただ単に運が良かっただけだろう。だから今回の件で得た教訓はただひとつ。昼夜問わず、知らない人についていくのはやっぱり危険だ〜!

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